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先日の夜、家が停電しました。
夜の8時すぎ、ちょうど夕ご飯どき。何の前触れもなく、部屋の明かりがふっと消えました。ブレーカーかなと思ったら、窓の外もまるごと暗い。地域ごとの停電でした。
明かりが消えて、最初に頭に浮かんだのは「……夕飯、どうしよう」でした。時間が時間です。お腹は空いている。電気はいつ戻るか分からない。
真っ暗になった瞬間より、その少しあとのほうが不安だったのを覚えています。冷蔵庫のモーター音って、止まると気づくんですね。家の中があんなに静かになるとは思いませんでした。スマホの充電残量を見て、意味もなく画面を暗くしたりして。
その静けさの中で思い出したのが、防災用に買ってあったカセットコンロです。
……「買ってあった」は、正確ではありません。買ったまま、オレンジ色のハードケースごと、災害用の持ち出し袋の横に数年置いてあったが正しいです。ケースの持ち手、一度も握ったことがありませんでした。
「備えてるつもり」で、一度も開けたことがなかった。停電の夜、初めて開けました。
今日はその体験談です。同じように「カセットコンロ、買ったまま放置してる」という方、きっと多いと思うんです。実際に使ってみて戸惑ったこと、「これは買っておいて本当によかった」と思った瞬間、そして後から調べて背筋が伸びた「期限」の話まで、元料理人の目線も混ぜてお伝えします。
箱から出して、最初につまずいたのは「ボンベのセット」でした
正直に言います。プロの厨房で15年働いた私が、家庭用カセットコンロのボンベひとつで手が止まりました。
厨房のコンロは都市ガスの据え付けです。カセットボンベを触るのは宴会用の卓上鍋くらい。しかも部屋は真っ暗で、スマホのライトを口にくわえて説明書を照らす始末です。字が、小さい。
ボンベをはめようとして、入らない。向きを変えても、カチッと来ない。「え、これ向きあるの?」と、火を15年扱ってきた人間が、缶をくるくる回しながら焦っていました。停電というだけで、指先がいつもより少しだけ言うことを聞かないんです。
あとで明るいところで確認した、正しいセットの手順はこうです。
- コンロの火力つまみが「消」の位置になっていることを確認する
- ボンベの切り欠き(凹み)を上に向ける
- コンロ側のガイド(凸)に切り欠きを合わせて、カチッと音がするまでレバーを倒す(またはボンベを押し込む)
- つまみを回して点火。つかなければ一度「消」に戻してやり直す

ポイントは切り欠きを上。これだけ覚えておけば、暗闇でも指の感触でセットできます。私はこれを知らずに、停電の夜にゴソゴソやっていました。
もうひとつ、あとから知って背筋が伸びたこと。コンロとボンベは、同じメーカーで揃えるのが基本です。メーカーは自社製ボンベとの組み合わせで安全性を確認しているためで、他社製ボンベが物理的に装着できる場合でも、その組み合わせの安全性は確認されていません。買い足すときはコンロと同じメーカーで揃えるのが安心です。
青い火がついた瞬間と、「お湯」のありがたみ
手間取ったぶん、ボッと青い火がついた瞬間の安心感は忘れられません。暗い部屋の中で、そこだけ色がついたみたいでした。
停電中って、できることが本当に少ないんです。冷蔵庫は開けたくない。電子レンジは沈黙。IHのご家庭なら、加熱手段がまるごとゼロになります。しかもこっちは、夕飯がまだなんです。
私がやったのは、やかんで湯を沸かして、備蓄してあった「お湯を注いで食べるごはん」(アルファ米というやつです)に注ぐ。それだけです。
でも、暗い台所でやかんの口から湯気が立ちのぼるのが見えたとき、大げさでなく「戻ってきた」と思いました。何がって、生活が、です。袋の口を開けて待つあいだの湯気のにおいと、できあがった温かいごはん。特別な味付けなんて何もない。それが、うまいんです。

ここで実感したことがひとつ。アルファ米は水でも戻せますが、多くの製品でお湯なら15分ほど、水だと1時間ほどかかります。空腹の夜の「15分と1時間の差」は、数字以上に大きい。お湯が作れるかどうかは、備蓄食が「すぐ食べられるごはん」になるかどうかの分かれ目なんです。
15年、火のそばで生きてきました。何千リットルというお湯を沸かしてきたはずです。その私が、停電の夜の一杯の湯気にこんなに救われるとは思いませんでした。災害時の「温かい」には、栄養以上に、気持ちを落ち着かせてくれる力があると感じました。手が温まると、気持ちの震えも少し収まる。これは理屈じゃありませんでした。
火力も想像以上です。家庭用カセットコンロは、普段の料理に使っても不足のない力があります。「湯を沸かす・煮る・温める」は文句なし。停電の夜の一杯には、十分すぎるほどでした。お湯を沸かすだけでなく、レトルト食品や缶詰の温め、簡単な鍋ものまで——停電でIHや電子レンジが止まっても、「火を使う料理」がひととおりできるのは大きな安心でした。
使ってみて分かった「選び方」——これから買う人・買い替える人へ
うちのは、持ち手つきのハードケースに入った防災向けの高火力タイプ(イワタニの「カセットフーBO-」という4.1kWのモデル)です。ケースごと置いておけるのは、私のような「しまいっぱなし派」には結果的に正解でした。ホコリをかぶらないし、避難で持ち出すときもそのまま掴めます。
今から選ぶなら、という目線でタイプ別に整理します。
| タイプ(例) | こんな人に |
|---|---|
| 防災・高火力タイプ(ケース付き) 例:イワタニ カセットフーBO- など | 備えが主目的。ケースごと保管・持ち出ししたい |
| アウトドア兼用タイプ(風に強い・頑丈) 例:イワタニ タフまる など | ベランダ・屋外でも使う。キャンプ兼用 |
| 薄型・普段使いタイプ 例:イワタニ 達人スリム など | 鍋・たこ焼きで日常的に使いつつ備えにもしたい |
ざっくり言うと、備え特化ならケース付き、日常兼用なら薄型。ただ、停電の夜にボンベの向きが分からず缶を回していた私から、ひとつだけ。どのタイプを選んでも、買った日に一度、明るい部屋で点火してみてください。あの戸惑いを暗闇でやるか、明るいリビングでやるかの違いは、本当に大きいです。
私はケース付きタイプを選びましたが、普段使いが中心なら薄型でも十分だと思います。用途で選べば、まず失敗しません。
カセットボンベの備蓄は「本数」と「使用期限」——ここが盲点でした
コンロ本体より大事かもしれないのが、ボンベの話です。
停電の夜、うちにあったボンベは、開けたばかりの3本入りパック。まるまる3本です。「3本もあれば余裕でしょ」と、そのときは思っていました。
あとで目安を調べて、静かに冷や汗をかきました。

- 備蓄の目安は「1人・1週間で6本弱」。国は大災害時に1週間は自力で生活できる備えを呼びかけていて、それをカセットボンベに換算した本数です(出典:イワタニ「カセットボンベの備蓄目安」 https://www.iwatani.co.jp/jpn/consumer/products/cg/useful/stockpile/ )
- 冬はもっと必要。イワタニの試算では、大人2人・1週間で気温25℃なら6.3本、気温10℃なら9.1本。寒い季節は約1.5倍です。停電が一番こたえるのは冬なのに、冬ほどガスを食う——ここ、盲点でした
- ボンベには使用期限がある。中のガスではなく、口金のゴムパッキンが劣化します。業界団体の案内は「製造後7年以内に使い切る」。製造日は缶の底に印字された8ケタの数字で分かります(出典:日本ガス石油機器工業会 https://www.jgka.or.jp/gasusekiyu_riyou/anzen/gasu_cart_keinen/index.html )
- コンロ本体は「製造後10年」が買い替え検討の目安。こちらもパッキン劣化が理由です。製造年月は本体側面の銘板シールに書いてあります(出典:同上)
つまり、「余裕でしょ」と思っていたうちの3本は、大人2人の冬なら3日と持たない計算でした。今は12本を目安に、鍋の季節に古いものから使って、減ったら買い足す——パックご飯と同じ、ローリングストックで回すことにしています。「賞味期限が近いから使い切る」の考え方は、ボンベでも一緒です。パックご飯の使い切りはこちらの記事をどうぞ。
👉 余ったパックご飯、賞味期限が近くても捨てないで|アレンジして使い切るコツ
最後に、安全のことだけは長めに書かせてください
カセットコンロは正しく使えばとても頼れる道具ですが、火とガスの道具です。停電や災害のときは誰でも気が急いています。だからこそ、先に読んでおいてください。
- 換気を必ず。屋内では定期的に窓を開ける(災害時でも)。閉め切った部屋・車内・テント内での長時間使用は一酸化炭素中毒の危険があります
- コンロを覆うような大きい鍋・鉄板・焼き網は使わない。ボンベが熱で温められて破裂する恐れがあります(ボンベカバーより大きい調理器具はNG)
- 2台並べて使わない。同じく熱がこもります
- 火がついたまま・使用中にボンベを交換しない。必ず火を消し、コンロが冷めてから交換します。あわてている災害時こそ、ここは落ち着いて
- ボンベは火のそば・直射日光・車内に保管しない
- 使い終わったらボンベを外して保管する
このあたりは取扱説明書とメーカーサイトに必ず書いてあります。数年間ケースの持ち手すら握らなかった私が言うのも変ですが——買った日に一度、説明書を読みながら点火してみる。ボンベの缶底の8ケタを見てみる。 それが一番の備えです。
停電は、またいつか来ます。そのとき「箱のまま」か「一度使ったことがある」かの差は、想像していたより、ずっと大きかったです。🐻


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