春風と腕毛を添えて、塩は頭の真上から|厨房で出会ったイカれた先輩 #2(Hさん編)

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みなさん、お肉に塩を振る時——

食材のすぐ上じゃなくて、少し上から振りますよね?

高い位置から振れば、塩がばらつき、食材全体に均等に味付けできます。これを、調理師用語で「打点」と言います。

私が修行時代、やたら打点が高い先輩がいました。

高すぎて……

——いえ、本題に入る前に、その人「Hさん」を紹介させてください🐻

このシリーズの注意書き(全話共通)

このシリーズは、実在の人物に愛のあるイジリを込めて書いています。

  • 登場人物は全員仮名(特定はできません)
  • 「イカれた」は親しみの表現
  • 15年の修行時代に出会った先輩たちを、リスペクトと一緒に

第1話「漫画顔の男前上司、主食はチョコラBB」も読んでない方は、そちらからどうぞ🐻

第2話の主役:Hさん登場

Hさんは——

  • 真面目で実直
  • 知識も豊富
  • 故に、誰も突っ込めない

このジレンマ。どうしたもんか。

そう、Hさんは「真面目すぎて、変人」枠の先輩でした。

Hさんの第一印象

Hさんは私より一回り年上、中堅〜ベテラン枠の先輩でした。

見た目は、お地蔵さん。

  • 髭が濃い
  • 中肉中背、でもそれなりにでっぷり
  • 分厚いメガネ
  • 髪型は天パ

そして、特徴的なアイテムが一つ——

前掛けを、やたら短く折って巻いてました。折って、折って、巻くもんだから、シルエットが金太郎

歩き方は特徴なし、声も普通。普段は静かで、お地蔵さんって感じ。

——でも、料理のことを語り始めた瞬間、急に早口になるんです。

このギャップ。「お地蔵さんが急に語り出した」って表現が一番しっくりくる人でした🐻

エピソード①:塩の打点が異次元

状況:営業中の厨房、メイン料理担当

厨房の花形・メイン料理を任されていたHさん。ある日のディナータイム、Hさんがフィレステーキ5人分を仕込んでた瞬間。

焼く直前——塩を振る、その動作。

周りからは:

  • 付け合わせはどうだ?
  • スープ、出てから何分経った?

非常に緊迫した空気。厨房は一番ピリピリする時間帯です。

Hさんの「打点」、異次元

通常、右利きの料理人は頭の15cmくらい右上から塩を振ります。

しかし、Hさんの打点は——

手を伸ばせるだけ伸ばして、右手・頭・食材が一直線。つまり、頭の真上から、塩。

心のくま:『先輩、それ、頭にかかってますよ』

塩、フィレステーキに……いや、Hさんの頭にも降ってる

本人が自覚していたかは不明。でも、時々、後頭部をパタパタはたいてた多分、気づいてた。🐻

「くまちゃん、塩の振り方が甘いよ。打点(料理人用語で塩を振る位置)は高い位置から降らないと、食材全体に均等に触れないんだよ、みててごらん」

——いや、頭にかかってますよ、先輩

周囲の反応:笑ってはいけない厨房

メイン料理を出してる真っ最中、緊張感ある厨房。笑える状況じゃない。

でも、お地蔵さんが頭の真上から塩振ってるんです。笑ってはいけない、キッチンVer。

腹筋、限界。息止めて、横向いて、ノドの奥で耐える。

——プロの矜持って、こんな試され方もあるんだなって思いました🐻

エピソード②:春風と腕毛を添えて

シェフがぺこくまに耳打ちするシーンの少年漫画タッチ挿絵

状況:メイン料理、提供直前

フィレステーキの盛り付けが終わった、その後の話です。

最後の拭き取り——皿の縁についたソースを拭き取る、最終工程。これも、Hさんの担当。立場的に偉い人だから、メイン料理の仕上げまでやります。

シェフからの耳打ち

拭き取りを終えたシェフ(料理長)が、私のところにこっそりやってきました。

「くまちゃん、若くて視力もいいだろ?もう一度、皿チェックしてくれないか」

「?」

「あいつ、腕毛が濃いから、たまに食材についてるんだ」

——え。

「俺も怒るに怒れない。センシティブな問題だ」

シェフの顔は、真剣でした。笑ってる場合じゃない。提供前の最終確認として、私に白羽の矢が立った瞬間です。

心のくま:『いやいやいやいや、ないでしょ』

皿に近づいて、目を凝らす。——ありました。

真っ黒な毛が1本、ぽつんと。春の風に揺れる、麦畑の一本のような、神々しさ

すぐに対応しました。真剣に、迅速に、お客様の口に絶対入らないように

後日、命名

その日の営業終わり、同僚にこっそり話しました。

「いや、シェフから耳打ちあって、Hさんの腕毛が…」

大爆笑。申し訳ない、本当に申し訳ないんだけど、笑いが止まらない

そして、私はこの一連の現象に、名前を付けました。

「春風と腕毛を添えて」

——海外の三つ星レストランでも、斬新すぎるシグネチャです🐻

でも、Hさんは仕事が別格だった

「くまちゃん」呼びの温かさ

Hさんは、私のことを「くまちゃん」と呼んでくれました。他の後輩にも「○○ちゃん」と、ちゃん付けで。

威圧感ゼロ・フランクで温かい。お地蔵さんの安心感、ありました🐻

真骨頂は「肉の火入れ」

野菜の下処理も早かった。でも、Hさんの本当の凄さは——肉の火入れ

牛・豚・子羊。どんな肉でも、忙しくても注文通りの火加減を崩さない

メイン料理担当として、毎日のディナーでプレッシャーがかかる中、ミスらない。これって、プロ中のプロでしかできない仕事です。

塩は頭にかかってたけど。

知識の深さと、早口問題

Hさんは知識が豊富で、色々丁寧に教えてくれました。たとえば、アングレーズソースの火入れの目安。

「スプーンから垂れ落ちる具合を見て掴むんやで」

——これを、めちゃくちゃ早口で説明してくれる。1回で覚えられないから、私は何度も聞き直しました

野菜の話も同じ。「○○は全国1位で〜」「△△は××産が一番〜」って、機関銃みたいに

——ほとんど聞き取れませんでした。 🐻

クラシックフレンチ愛

Hさんはクラシックなフレンチが好きで、歴史的な背景も含めて教えてくれました。何の料理がどんな由来で、誰がいつ作って、なんていう話。

——全然覚えてないんですけど。 🐻

でも、その情熱が伝わってきたのだけは、ずっと忘れられない記憶です。

お地蔵さんが急に語り出すあの瞬間「プロが好きを語る」温度を、初めてちゃんと感じた人でした。

Hさんへ、ささやかな手紙

塩は、頭にかかってた。腕毛は、皿に乗ってた。

でも——

肉の火入れは絶品だった。
教え方は、丁寧だった。

そして、私を「くまちゃん」と呼んでくれた、温かい先輩でした。

🐻 Hさんへ

もし、これを読んでたら——

次回はアームスリーブ買ってください。もしくは、脱毛、行ってください。 🐻笑

——でも、Hさんから教わった肉の火入れ、今でも家でやってます。

ありがとうございました。

ぺこくまは、まだまだネタを抱えてます

シリーズはまだまだ続きます。

次回は、ティファールよりも沸点が低い先輩(Oさん編)の予定🐻 毎日コンプラ指導を受けてた人の話、お楽しみに。


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ぺこくま — 元プロ料理人(経験15年)。
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